質問サイトを使っていると、ボカロについての質問を見ることがある。
「好きなボカロは?」「ボカロを教えて」などといった質問である。
とくにコロモーという質問サイトでは、ボカロなどのサブカル系の話はよく出る話題だ。
ちなみにボカロとは、ヤマハが開発した音声合成ソフト『Vocaloid』のこと。
メグッポイドなど他社製品が含まれることもあるが、あくまで音声合成ソフトを指す言葉である。
しかし最近ではボカロをボカロ曲(ボカロを使って作った曲)として使う人が多いらしい。
「好きなボカロは?」「ボカロを教えて」といった質問にたいしてボカロ自体ではなく、ボカロの曲名が回答されていく。
どうやら質問している人も曲名を聞いているようで、齟齬はないようなのだ。
初音ミクのデモ曲がニコ動に掲載されたころからボカロを知っている身としては、この使われかたに違和感を覚える。
「ボカロを教えて」という質問に曲名を答えるのは「AKBを教えて」という質問にAKBの曲名を答えているのと同義であり、「好きなボカロは?」という質問に曲名を答えるのは「好きなBTSは?」という質問にメンバーではなくBTSの曲名を答えているのと同義なのである。
なぜボカロをボカロ曲と混同しているのか?
それが疑問として積もりに積もり、先日ついに質問をしてみたところ、なぜそういった食い違いが起こるのかが見えてきた。
ボカロはもともとオタク文化としてニコ動内でのみ楽しまれていたコンテンツだった。
それまでは歌の上手い人がカラオケを投稿したり、音MADなどの動画編集をできる人しか投稿できなかったものが、ボカロを使うことで自分が作った曲を投稿できるようになり、投稿される動画数が格段に増えたように思う。
とくにボカロ人気の火付け役となった初音ミクはその見た目、年齢などの設定があったことにより、オタクの興味をそそるに十分な素質を兼ね備えていた。
最初は一部の人たちしか初音ミクを買うことはなかったが、そのうち初音ミク、そしてその前に発売されたMEIKOとKAITOにキャラ付けがされていった。
初音ミクの好物はネギ。MEIKOは酒豪だし、KAITOはアイスが好きだ。
他にも兄妹設定や恋人設定など、いろんな妄想が動画として投稿されていった。
そういったオタクの妄想にも助けられ、ボカロはニコ動のなかで大きなコンテンツに育っていったのである。
そんな時代を生きてきたわたしにとって、ボカロとは初音ミクやMEIKO、KAITOを指す言葉であり、ボカロを使った曲はあくまで曲でしかない。
その後メルトが前代未聞の大ヒットをし、ボカロが世間一般に広く知れ渡ることとなる。
これを期にボカロPも爆発的に増え、歌い手も数え切れないほどに増えた。
鏡音リン・レンや巡音ルカも参戦したし、GUMIやガクポも発売されたことにより、さらにボカロというコンテンツが大きくなっていった。
いまではニコ動から排出された歌手や作曲家が一般的に活動していたり、TVでボカロ曲を聞くこともよくある。
このメルト後の世代にとってはボカロの見解が少し変わるらしいのだ。
どうやら彼らにとってボカロはジャンルでしかなく、ボカロというソフトはあくまで音声合成ソフト、つまり楽器でしかない。
これにはボカロを紹介するメディアの影響もあるのだと思う。
ボカロ曲はあくまでボカロを使った曲であり、それぞれの曲にはジャンルがある。
Jpopやロック、トランスなどいろんなジャンルの曲がボカロ曲には存在しているのだ。
だが、ボカロ曲をそのままボカロとして紹介してしまった。
ボカロを使った曲は全てボカロといったジャンルに一緒くたにされてしまった。
くわえて、いまはボカロPや歌い手が一般の歌手としてデビューしているため、一般の曲とボカロ曲といった分けかたをされているのかもしれない。もしそうならボカロ曲をボカロとして組分けしているかもしれない。
そうしてボカロ曲がボカロというジャンルとして確立されていったのではないかと思う。
ただ、それが分かってもやはり違和感は残る。
なぜなら音声合成ソフトはあくまで楽器、ピアノやヴァイオリンと同じでしかない。
「ピアノを教えて」や「好きなピアノは?」といった質問にクラシック曲を答える人がいるのだろうか?
そんな違和感を持ち続けたまま、これからはボカロの質問には曲名で答えていこうと思う。